デジタルなのに不自由なテレビ

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日経エレクトロニクスの記事
http://techon.nikkeibp.co.jp/article/TOPCOL/20080729/155594/

 「映画だけコピー・ネバーで放送してくれれば…。混在でやってくれれば問題は一挙解決なんですけどねぇ」

 7月24日に行われた「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」の記者会見に顔を出してきた。会見そのものは大荒れになった7月10日の文化庁 文化審議会の私的録音録画小委員会(Tech-On!関連記事)を受けて,権利者が従来の主張を繰り返すという内容で,正直言って新味に乏しかったし,実演家著作隣接権センター(CPRA)の椎名和夫氏の話なら先日たっぷり聞いている(Tech-On!「椎名氏へのロング・インタビュー」)。何となく気が進まず,他の取材などにかまけて後回しにしているうちに,気づいたらTech-On!にニュース記事を上げるタイミングを失っていました。すみません。代わりにITproの記事PConlineの記事をリンクしておきます。

 それでその会見の後に,出席者の一人である日本映画製作者連盟の華頂尚隆氏をつかまえていろいろ聞いた。会見に来た他の記者たちには,椎名氏と日本音楽著作権協会(JASRAC)常務理事の菅原瑞夫氏が人気だったので,ちょっとチャンスだったのだ。

 華頂氏はいわゆる「見出しになる」発言が多い人物で,常々,「映画はもともとコピーを認めていない」と主張している。コピーを認めていないが,テレビ放送ではコピー・フリーもしくはダビング10として放送されてしまうから,その分を「私的録画補償金の対象にせよ」というわけだ。異論はあるだろうが,意見としては筋は通っている。

 この論理だと,もしコピー・ネバー放送なら補償金はいらないはずである。そこを確認すると「そうだ」と言う。ならば,テレビ局にお願いして「映画はコピー・ネバーで放送してもらえばどうか?」と尋ねたら,冒頭の答えが出てきた。華頂氏は続けて「ダビング10とコピー・ネバーの放送を混在させることは技術的にはできるはずなんですけどね。なぜかできないと言われるんですよ。なんでできないんですかね」と逆に聞いてきた。

 記者も華頂氏の言うとおりだと思う。地上デジタル放送は放送波に含まれたコピー制御信号によって,録画機側が放送をどう扱えるかを決められるしくみになっている。コピー・フリー(制約なしにコピー可),コピー・ワンス(1世代のみコピー可),コピー・ネバー(コピー禁止)が選べるほか,コピー・フリーのオプションとしてEPN(出力保護付きコピー・フリー)が選べる。さらに,コピー・ワンスのオプションとして「ダビング10」がこのほど加わった。

 番組ごとにこれらの信号を切り替えて放送すれば,今言われているテレビの録画の問題の大半は解決できる。映画はコピー・ネバー,報道番組やCMはコピー・フリー,バラエティ番組などはダビング10,教育番組などはEPNなどと番組の特性ごとに切り替えれば,「クリエーターの保護」と「ユーザーの利便性の確保」の両立が十分に可能なはずだ。というか,そのための技術なのである。

 しかもこうした制御はデジタル放送だから可能なのである。いわばデジタル・テレビならではのメリットなのだ。アナログ放送ではこうした技術がなかったから全部コピー・フリーにせざるを得ず,「クリエーターが不当に我慢を強いられていた」という側面は無視すべきではない。コピー制御信号の有効活用は本来であれば,アナログ放送からデジタル放送へ移行すべき最大の理由の一つになってもおかしくないと個人的には思う。

 テレビがアナログからデジタルになって画質が良くなった,けど不自由になった,ユーザーも権利者も不満が増えた,ではつまらないではないか。デジタル革命はすべての人に等しく新たな自由をもたらすべきだと思う。記者は割とナイーブにそう信じているのだけど,どうだろうか。

 そういえば,総務省 情報通信審議会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会(デジコン委)」の2006年度の会合で,NHKの委員が「教育テレビの番組で一部EPN化できるものはないかについて検討しています」と発言したことがあった(オブザーバーで出席していたNHKの元橋圭哉氏が第6回,第12回,第13回でその趣旨の発言をしている。デジコン委のPDF議事録へのリンク,第6回第12回第13回)。あれはどうなったのだろうか。まだ検討中だといいのだが。

 ちなみにこの話にはちょびっと続きがある。華頂氏は「もしそうなったら某タレント事務所の意向で,特定のCMだけコピー・ネバーになったりするかもしれないね」という。確かにそうかも。あの事務所ならやりかねない。けどね,録画できないCMタレントなんてスポンサーが拒否するでしょう。あるいは,それでも使いたいタレントなら,それはそれで「健全な競争」の成果という気がする,と答えておいた。

言われてみれば、確かにそうだな、という内容。基本的にDRMは個別にコンテンツごとにつけられるもの。

ただ、そういう運用にすると、テレビ局的には映画のみでなくすべてのコンテンツをコピーネバーにしたいということにもなりかねず、そうなるとさらに議論が混乱するか。

 

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