動画CGM テレビとネットそれぞれのアプローチ
http://it.nikkei.co.jp/digital/news/index.aspx?n=MMITel000015112007
動画によるCGMは「違法だ」「ゴミだ」と批判にさらされながらもユーザーの支持を集め、ビジネス利用も進んできている。今回は動画CGMに対するテレビ局とネット業界のアプローチや立場の違いを考えてみたい。(江口靖二のテレビの未来)動画配信などにかかわっていると、一般の人は「動画を消費したい」と思ってはいても、「動画を生産したい」とは思っていないことがよく分かる。写真を取り込む作業と比べると時間軸が加わるため、圧倒的に手間がかかる。「要するにつっこみをいれたい」という指摘は、大変に的を得た指摘。■普通の人が手に入れた自由と限界
まず簡単にネットでの動画CGMの動向を整理しておこう。動画CGMに分類できるサービスの登場は、普通の人が 動画コンテンツを世に中に提示できる環境をつくりだし、マスメディアだけがそれを独占してした時代から比べれば、革命的ともいえる変化をもたらしたのは間 違いない。しかし、コンテンツの中身については質的、内容的に問題があるものが少なくないのもこれまた周知の通りである。
コンテンツを制作するという点では、普通の人が1人ですべて(撮影、編集、音声などなど)をこなしていくのは誰にでもできることではなく、それもこれまで本コラムで何度か述べてきた通りだ。そんななか、「初音ミク」のようなツールや完成品を発表するだけの場ではない「ニコニコ動画」といった分業型サービスが人気を集めている。
■動画参入障壁を克服したサービス
MSN産経ニュースが始めた「ざわざわニュースジェネレーター」もコンテンツ制作のハードルをいかに下げるかを狙っている。これは自分のコメント入りの動画ニュース番組を制作できるサービスである。ニュースを作るといってもカメラを担いで現場に向かう必要はない。これは動画系CGMにおいて非常に多くの示唆に富んでいる。
たとえば
・構成台本を書かなくていい
・撮影しなくていい
・編集しなくていい
・ナレーション、音楽入れをしなくていい
・自由にテキスト入力できる
・時間によって自動でパターンが変化する
などといった動画を扱う際の参入障壁のほとんどが突破できている。■要するにツッコミを入れたい
これらのサービスやツールに共通していることは、「一般の人たちは必ずしも動画そのものを一から作り出したいわ けではない」ことに気づいているという点である。すでに作られた映像に対して、それがメジャーであればあるほど「それに参加したい」「もの申したい」とい う欲求のほうが強いのである。
かつてお茶の間でテレビを囲みながら、「この人の洋服センスがないねー」などと交わされていた会話。それをネッ トを使って引き出し、さらに共有させようと、これらのサービスはしている。ユーザーはお客様センターに電話したり、番組ブログにテキストで投稿するのでは なく、映像には映像で、それもできるだけ簡単にツッコミを入れたい。そうした要求にどう応えるかにサービス開発の方向は進んでいる。
■テレビ局が動画CGMに取り組む理由
一方、テレビ局ももちろんこうした動画系CGMにアプローチしている。フジテレビの「ワッチミー!TV」 は動画投稿サイトであると同時に、テレビ局ならではの工夫や目的を持って運用されている。かつて深夜の時間帯が新たな番組ジャンルの確立を目指したのと同 じように、どちらかといえば「企画の実験場」と位置づけ、ネットならではのコミュニティー機能を付加させている。編集部企画によってユーザー側にたとえば ペット自慢のような「お題」を提供し、その制約の中で投稿と視聴を促している。
■クリエイター発掘との両立は成るか
また、先日スタートしたテレビ朝日などによる「ブロスタTV」 はデジタルコンテンツ作品のプロモーション活動や発表の場を提供する映像配信サービスである。どちらかといえばセミプロクラス以上のクリエーターに向け て、「クオリティーの高い作品を市場が求める作品としてプロデュースしプロモーションから作品の出口までご提供していく」という。
ブロスタTVは作品を投稿した会員と契約し、作品のプロデュースや営業代行、商談、権利、条件調整を行う。これ はテレビ局主導による「クリエイター発掘プロジェクト」であって、かつての「イカ天」も「アメリカンアイドル」も同じ趣旨といえる。ブロスタTVがマー ケットプレイスとエンタテインメントとしての地位を両立しながら、成功できるのか注目したい。1万人に1人、いや100万人に1人を探し出す作業、それも 瞬間芸、一発屋ではないものを。そのためにテレビ局の果たせる役割は少なくない。
■すべての道は放送に通じる
先の2つのテレビ局側の取り組みは、アプローチの仕方こそ異なるが共通の目的はあくまでも本業である放送へのフィードバックである。そしてそれは当然のアプローチと言えよう。
テレビは
1 多くの人にコンテンツを送り届ける
2 多くの人がコンテンツを受け取る
という仕組みに広告という要素を加えてマネタイズしてきた。そして動画系CGMで
3 多くの人に参加してもらい、いじってもらうという機能を付加しようとしている。今後は自局の番組自体をどこまで触らせるようにするのか注目したいところだ。繰り返すがかつてのお茶の間の会話をデジタル化できるかがポイントである。
テレビ局はやはりCGMに過大な期待をしていないので、単純にどんどん作品を投稿してくださいと言ったところで ロクなモノが集まらないことをよく知っている。そのために「参加、いじる」部分の工夫と、それを再び放送によって多くに人に送り届けるといったスパイラル の確立にしのぎを削っていくに違いない。